どんでん返し好きにはたまらない一冊です。
パート1も非常にハラハラドキドキしながら読んだ覚えがあり、今回パート2を書店でみかけ即購入しました。
本作の特徴は、各章末にストーリーに関連する実際の写真が1枚挿入されていることです。
その写真(=画像情報)がこれまでの伏線を回収していたり、文字情報だけを追ってきた読者の思い込みを補完したり覆したりする効果を発揮しています。
以降、章ごとにザっと振り返ってみます。(これ以降、ネタバレあり)
第1章 明神の滝に祈ってはいけない
いきなりですが、桃花(妹)視点で書かれたチャプターは子年に起きた出来事、大槻(管理人)視点で書かれたチャプターは翌年の牛年に起きた出来事なんだそうです。
章末の写真に写っている干支だるまが牛になっていることが腑に落ちず、ググったところ上記の鋭い考察を発見しました。
確かに、大槻チャプターで、捜査対象となっている女性が緋里花(姉)だとは一言も書かれていません。
桃花チャプターの流れで自然に読んだ自分はあっさりミスリードされてしまいました。
本章のクライマックスで、桃花は冷凍庫のなかで遺体を発見し、扉に右手中指を挟んで負傷しながらもなんとかその場から逃走します。追ってきた大槻は、桃花が冷凍庫のなかにいた人物なのかどうか確証を得るために、フラッシュを炊いて写真を撮ります。(それが章頭のお祈りをしている写真です。)
しかし「確実に写っていると思ったもの」は写真に写っていませんでした。
確証が得られず立ち去ろうとした大槻ですが、ふと途中で立ち止まり、デジカメのディスプレイを見てある事実に気付きました。(これに関しては後述します。)
本章は何気なく読み進めると
・冷凍庫の遺体は大槻の母と緋里花→桃花は何とか逃げおおせた(子年)→大槻は罪の露見を恐れて滝から身投げ(子年)
となりますが、冒頭に書いた時系列のズレを考慮すると
・冷凍庫の遺体は大槻の母と桃花→桃花は逃げ切れなかった(子年)→大槻は罪の露見を恐れて滝から身投げ(牛年)
となります。
第2章 首なし男を助けてはいけない
本章は本当に章末の写真ありきの章です。
・伯父さんが軽トラの運転を誤り、首なし人形を轢いて川に突き落としてしまう→実は人形でなく人間(タニユウ)だった→と思ったらタニユウは警察に勾留されていただけで、やっぱり川に落ちたのは人形だった。
タニユウ、人騒がせ過ぎるだろ…というのは置いておいて。伯父に、よかった、轢いたのは人形だったんだよと知らせに行った場面が章末の写真。ツナギの描写は大した意味を持っていません。天井から人形が吊るされているのが見切れています。人形のわりには指がやけにリアルです。ここで、章の序盤で人形の手は「指などはなく、手足の先はただ布が丸く縫い合わされているだけだ。」とあります。ということは…
第3章 その映像を調べてはいけない
本章がいちばんややこしいのではないでしょうか。
序盤まで読むと
・孝徳(父)はDVに苦しみ孝史(息子)の命を奪った→孝史の遺体を川に流した
となりますが、さらに読み進めると
・孝徳(父)智恵子(母)はDVに苦しみ孝史の命を奪った→孝史の遺体を川に流した山に埋めたらしいが発見できない
となります。
孝史の遺体はどこにいったのでしょうか。
孝徳は孝史を「一番好きだった花の下」に埋めました。孝史は幼少時、花に埋もれながらこの花が一番好きだと言いました。
サザンカについては、見上げながら「いいね」と言ったのみで埋もれることはできません。
章末の写真には一面コスモスの花畑が写っており、これは埋もれることができます。
自宅居間の「座卓には一輪挿しが飾られ…コスモスが一花…咲いていた」とあります。ということは…
第4章 祈りの声を繋いではいけない
これまでの謎の答えをさりげなく散りばめた章です。
・自宅の床下に孝史を埋めようとした孝徳だが、既に床下には緋里花が埋まっていた→どういうことかと緋里花の傍らにあったスマホの中を見てみると、孝史と緋里花のやりとりが見つかった→何らかのトラブルで孝史が緋里花を床下に埋めた可能性が高い、と孝徳と智恵子は考えました。
孝徳としては、孝史の遺体は妻を守るために絶対に隠ぺいしたい→自宅居間の床下に埋めた。
緋里花の遺体は遺族に返してあげたい→発見されるように床下から掘り起こして山に埋め直した。
そして章末の写真は着信のあったスマホを写しています。
智恵子の病室のサイドテーブルに置かれたスマホは、前述の緋里花のスマホです。
いつか緋里花に届くだろうと両親が桃花のスマホからかけた電話が、緋里花のスマホを鳴らしています。丁度、その病室には隈島(刑事)がお見舞いに来ていたところです。智恵子のものだと思っていたスマホに桃花からの着信があり、スマホは緋里花のものだとわかり、なぜそれが智恵子の元に…という風に事件が解決していくことが暗示されています。
最後の謎
さて、第4章の序盤で冷凍庫の遺体は桃花のものだったということが明らかにされました。第1章を一読したのみでは、冷凍庫の遺体は緋里花のもので、大槻に首を絞められたのも緋里花だと誰もが思ってしまうのではないでしょうか。
桃花は大槻に追いかけられ、明神の滝までやってきました。そこでさもずっとお祈りをしていたかのように装い、大槻をかわそうとしました。大槻は、小屋に侵入した人物が桃花かどうか確証を得るために、フラッシュを炊き写真を撮りました。それが本作の一番最初に登場する、祈りを捧げる少女の写真です。侵入者は小屋の中での格闘で指を負傷していることを大槻は知っているため、写真に爪が剥がれた指や、血の跡が写っていれば、侵入者=桃花だと確証が得られるということです。
「確実に写っていると思ったもの」とは、怪我をした指です。
しかし、写真には怪我をした指は写っていませんでした。あれー侵入者は桃花ではなかったのか、と立ち去ろうとした大槻ですが、あることに気付きました。もう一度、祈りを捧げる少女の写真をよく見てみて下さい。特に注目して欲しいのは握り合わせた指の部分です。
指を一本ずつ上から(体に近い方から)見ていきましょう。
1本目…左手親指
2本目…右手親指
3本目…左手人指し指
4本目…右手人指し指
5本目…左手中指
6本目…右手中指
7本目…左手薬指
8本目…右手小指
9本目…左手小指
一本足りません。右手の指が4本しか写っていないのはなぜなのでしょうか。右手の4本目は明らかに短いので小指だとして、薬指がどこかにいってしまったのでしょうか。
読み返してみると、桃花は右手中指を冷凍庫の扉に挟んで負傷したのでした。
それを大槻から見えなくするために、右手中指は握った掌の中におりたたんで隠したのです。
すると、
1本目…左手親指
2本目…右手親指
3本目…左手人指し指
4本目…右手人指し指
5本目…左手中指
6本目…右手中指→右手薬指
7本目…左手薬指
8本目…右手小指
9本目…左手小指
となり、本来中指がくるところに、薬指をもってきていたということになります。
機転を利かせた桃花でしたが、じっとデジカメのディスプレイを覗き込んだ大槻に見破られてしまいました。