『きこえる』道尾秀介 ※ネタバレ感想

読書
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前回は「いけないⅡ」という、視覚(画像)情報を伏線回収に用いた小説を読みました。

今回は「きこえる」という、聴覚情報を伏線回収に用いた小説です。

どうやって音を小説に入れ込むのかというと、小説の中にQRコードがプリントされており、それをスマホ等で読み込むとyoutubeのページに飛ぶという仕掛けです。

さっそくですが、第1話からネタバレを含む感想を記していきます。

第1話 聞こえる

・初見で把握できるストーリー

ライブハウスを経営していた良美は駆け出しミュージシャンの夕紀乃と一緒に暮らしていた。
段々と人気が出てきた矢先に、夕紀乃は何者かに命を奪われてしまう。
夕紀乃の両親が夕紀乃の遺品を引き取りに来る予定の日の前日、夕紀乃の父親が家を訪れた。
良美は、夕紀乃が生前遺したCDから聞こえた声に重要な意味があるはずだと夕紀乃の父親に訴えるが、なぜか父親の前ではCDから夕紀乃の声が聞こえることはなく、良美が錯乱していると捉えた父親は、逃げるように夕紀乃の遺品を持ち去っていった。

・音源を聞いたあとの感想

話の最後に貼られたQRコードから夕紀乃の声を聞けば、話の大筋は掴めるはずです。
その声によれば、良美の家を訪れた男は夕紀乃の父親ではなく、夕紀乃の命を奪った張本人だとのこと。
しかしいまいち分からないのは、その男は結局誰なのか、通り魔ということでいいのか。
男がわざわざ家まで来たのはなぜなのか、証拠隠滅のためか。
本当の両親が来る前日にタイミングよく訪れることができたのはなぜなのか。
声の後半部分の「ヘッドフォンを外してください」、「聞いてください」とは何を意味しているのか。

声による証言の裏付けとなるのがラストの、長野ナンバーの車が良美の家の前に停まる描写。
夕紀乃の実家は長野なので、その車は夕紀乃の両親ということになり、すると前日に訪れた男は父親ではないという話になります。

第2話 にんげん玉

・初見で把握できるストーリー

定年退職後、金に困っていた鈴木は参加した怪しいセミナーの主催者である寺門徹の顔を見てあることを思い出す。25年前、鈴木は女性教師殺害事件の被害者宅から出てくる高校生を目撃しており、それがまさに目の前にいる寺門徹本人だったのだ。セミナー会場のトイレで鈴木は目撃談をネタに、寺門から100万円を脅し取ることに成功する。しかしあっけなく、鈴木は警察に捕まってしまう。寺門が刺殺体で発見されたこと、セミナーの事務員が脅迫の事実を証言したことに起因している。
最後の「元教師が元教え子をねえ…」は逆じゃないのかと思いつつも初見読了。

・音源を聞いたあとの感想

まず脅す側と脅される側の声年齢に違和感を覚えました。
初見通りであれば、脅す側が鈴木の老いた声で、脅される側が寺門の若い声であるはずですが、音声では逆でした。
ということは、実際は脅す側が寺門で、脅される側が鈴木だったのではないでしょうか。

そうやって読み直すと色々新鮮です。
時効について調べたのは相手(寺門)ではなく、自分(鈴木)の時効の再確認のため。
トイレにいったのは脅す側の緊張感ではなく、脅される側の緊張感のため。
「ねえ…先生」の先生とはセミナーの先生ではなく、元数学教師という意味の先生。
「計算は得意でしょ?」も同様です。
握りしめた百万円は脅し取ったものではなく、これから脅し取られるもの。
「元教師が元教え子をねえ…」にも納得です。

いまいち分からないのが、事件当日、鈴木が寺門を見たという記述。これにまんまと騙された訳ですが、鈴木が犯行を犯すちょっと前に、寺門も犯行現場を訪れていたということでしょうか?
犯行当日に男が2人も出入りしてて、2人とも無罪放免てあり得るんでしょうか。

第3話 セミ

・初見で把握できるストーリー

秀一は、小学校の同級生である聖矢(セミ)のことを体が大きいことや頭が回らないことで敬遠していた。が、ある日昔のテープを聞いたところセミが履いていたおむつを、おさがりとして秀一がもらっていたと分かり急速に仲良くなる。ところが、幼い頃秀一の父親が亡くなった原因が、セミを助けるためだったことが分かると、秀一はセミを拒絶するようになる。体調を崩した秀一を見かねた祖父母と共に病院に向かう途中、セミが車の前に立ちはだかる。車に乗り込み一緒に病院に連れて行ってくださいというセミ。馬鹿、馬鹿、と泣きじゃくりながらセミを叩き続ける秀一。

・音源を聞いたあとの感想

1回聞いただけでは、セミが自分の体を秀一の移植手術に使ってくれと言っていることは分かっても、どこでそう思ったのかが分かりませんでした。
しかし、秀一が病床でテープを再生した時にセミは玄関前に来ていてその音を聞いていたのですね。
テープでは祖父母が「聖矢君のところ、(おむつが)もういらないって言ってたからもらってこよう」と話しており、これを聞いたセミは、(おむつが)の部分を文脈から汲み取ることができず、自分がもういらないと言われたと勘違いし悲嘆にくれました。しかし自分が役に立つならばと、喧嘩中の秀一に自分の体を捧げるべく駆け付けたというわけです。

第4話 ハリガネムシ

・初見で把握できるストーリー

僕(塾講師)は、高垣(塾の生徒)の家に盗聴器を仕掛け夜な夜なその室内の音に聞き耳を立てていた。
その内分かってきたこととして、高垣は母親とその再婚相手の男と3人暮らしだということ。
再婚相手の男は漁師として稼いでいたがいまは怪我をして飲んだくれていること。
そのため家には金がなく高垣の大学進学資金の捻出に苦慮していること。
義理の父から度々暴行を受けていた高垣は、ある日ついに義理の父を手にかけ、漁船の下に沈めた。
遺体は海水生物についばまれて殺人の痕跡は消え、水難事故として保険金が下りる。
その保険金と漁船を売ったお金で高垣は大学進学を果たす。

・音源を聞いた後の感想

この話については、音源を聞いても大きな発見が得られませんでした。
もう全部、文章中で田浦(高垣のクラスメイト)が説明してくれていたとおりでそれを超えるものはないように思うのですが。。
引き出しから響いたキーンという音は金属音だったのでおそらく取り出したのは刃物。
最後に声が盗聴器にすごく近付きました。これが何を意味するのか。
アイマスクが凶器?アイマスクを付けて見ないようにして刺した?追い詰めたのがたまたま盗聴器の近くだった?
文章の最後で主人公が盗聴器を回収していることと関係があるのかないのか。

第5話 死者の耳

・初見で把握できるストーリー

桂木美保は友人の瀧沢怜那との通話を録音していた。
それは夫である瀧沢鐘一によるDVの証拠を録りたいと怜那から頼まれたことによる。
怜那が自宅に入ると鐘一がビニール袋を頭に被った状態で事切れていた。電話口で絶叫する怜那。
桂木が現場に駆け付けると鐘一だけでなく、怜那までもがベランダから落ちた死体で発見された。
当初は夫の死を嘆き怜那が自死を選んだという見方だったが、捜査を進めるうち、怜那は不倫相手の飯田と一緒になるべく鐘一の殺害を企てており、アリバイのために桂木に録音を頼んだという可能性が浮上する。だが確証が得られず捜査は行き詰まり、あとには何故容疑者が死んでしまったのかという謎だけが残った。

・音源を聞いた後の感想

これは音源のアップ先がyoutubeだということがキーです。
音源を聞きながらyoutubeの画面を何気なくみていると、事切れていたはずの鐘一がムクリと起き上がります。そして怜那のいるベランダの方に歩いていきます。
鐘一は死んだフリをしながら怜那と飯田の会話を聞いていたはずです。
その内容に悲観した鐘一は怜那と無理心中を図ったと思われます。